奥山税務会計事務所(東京都豊島区南池袋/池袋駅徒歩8分)
決算の直前に「棚卸資産の評価方法は何を選んでいますか」と聞かれて、すぐに答えられる経営者の方は多くありません。実際には、届出書を出していない会社にも税法上の評価方法が決まっており、それが期末の在庫金額、ひいてはその期の利益の金額に直接影響します。
ここでは、選べる評価方法にはどんなものがあるのか、届出の期限はいつなのか、届出をしなかった場合はどうなるのか、そして一度決めた方法を変えるときに何が必要なのかを、国税庁の資料と条文にもとづいて順に整理します。
棚卸資産の評価方法とは?なぜ利益に影響するのか
棚卸資産の評価方法とは、期末に残っている在庫を「いくら」として計算するかの決め方です。
売上原価は、ざっくり言えば「期首の在庫+当期の仕入(製造)-期末の在庫」で計算されます。つまり期末の在庫金額が大きくなれば売上原価は小さくなって利益は増え、期末の在庫金額が小さくなれば売上原価は大きくなって利益は減ります。同じ物が同じ数だけ倉庫に残っていても、どの評価方法を使うかによって金額が変わり、結果として利益と税額が変わる、というのが評価方法の話です。
だからこそ法人税法は、評価方法を会社が自由に決めっぱなしにするのではなく、「あらかじめ選定して税務署に届け出る」という仕組みにしています。
そもそもどこまでが「棚卸資産」なのか
棚卸資産の範囲は、法人税法施行令第10条で次のとおり定められています。
- 商品または製品(副産物および作業くずを含む)
- 半製品
- 仕掛品(半成工事を含む)
- 主要原材料
- 補助原材料
- 消耗品で貯蔵中のもの
- これらに準ずるもの
販売用の商品や製品だけでなく、製造途中の仕掛品、原材料、そして未使用のまま貯蔵している消耗品まで含まれる点に注意してください。「在庫」と聞いて商品しか思い浮かべていないと、期末の棚卸で漏れが出ます。
なお、評価方法を選定する際の資産の区分は、これとよく似ていますが少しずれています。選定の区分は「商品または製品(副産物および作業くずを除く)」「半製品」「仕掛品(半成工事を含む)」「主要原材料」「補助原材料その他の棚卸資産」の5区分で(法人税法施行令第29条第1項)、副産物および作業くずは「その他の棚卸資産」に含めて扱うこととされています(国税庁「棚卸資産の評価方法の届出書の記載要領等」)。
選べる評価方法は「原価法6つ」と「低価法6つ」
選定できる評価方法は、法人税法施行令第28条第1項に定められています。大きく原価法と低価法に分かれ、原価法は次の6つです。
- 個別法による原価法
- 先入先出法による原価法
- 総平均法による原価法
- 移動平均法による原価法
- 最終仕入原価法による原価法
- 売価還元法による原価法
低価法は、上の6つの原価法それぞれで計算した価額と、事業年度終了の時における価額(いわゆる時価)とのうち低いほうを評価額とする方法です。つまり「個別法による原価法に基づく低価法」から「売価還元法による原価法に基づく低価法」まで、原価法と同じく6通りあります。
ひとつ制限があります。個別法(およびそれを基礎とする低価法)は、通常ひとつの取引によって大量に取得され、かつ規格に応じて価額が定められている棚卸資産については選定できません(法人税法施行令第28条第2項)。規格品を大量に仕入れるようなケースで、1個ずつ個別に原価を追いかける方法は認められない、という趣旨です。
また、この12通り以外の方法(特別な評価方法)を使いたい場合は、あらかじめ税務署長の承認を受ける必要があり、「棚卸資産の特別な評価方法の承認申請書」を提出することになります。
届出をしないと「最終仕入原価法」になる
ここが実務でいちばん重要なところです。評価方法を選定しなかった場合、または選定した方法で評価しなかった場合は、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法で評価することとされています(法人税法施行令第31条第1項。同条の見出しはそのまま「棚卸資産の法定評価方法」です)。
つまり、届出書を出していない会社は、何も選んでいないつもりでも、法律上は最終仕入原価法で評価すべきことになっています。同施行令第31条第2項でも「評価の方法を届け出なかつた内国法人がよるべきこととされている前項に規定する評価の方法」という言い方をしており、届出をしていない法人にこの規定が及ぶことが読み取れます。
最終仕入原価法は、期末棚卸資産を種類・品質・型ごとに区別し、その事業年度終了の時から最も近い時に取得したものの1単位当たりの取得価額を、その1単位当たりの取得価額とする方法です(法人税法施行令第28条第1項第1号ホ)。期末の直前に仕入れた単価が、在庫全体の評価に反映されるということです。
どの方法が自社にとって有利かは、仕入単価がどう動いているか、在庫をどれだけ持つのか、在庫の種類が多いのかといった条件で変わります。ここで一般化して「この方法が得です」と言えるものではありません。ただ、「気づかないまま最終仕入原価法になっている」状態と、「検討した結果として最終仕入原価法を選んでいる」状態は、まったく別物です。
届出の期限はいつまでか
普通法人を設立した場合、棚卸資産の評価方法の届出書の提出期限は、設立第1期の確定申告書の提出期限までです(法人税法第72条または第144条の4に規定する仮決算をした場合の中間申告書を提出するときは、その中間申告書の提出期限まで)。提出先は納税地の所轄税務署長で、根拠は法人税法施行令第29条第2項、第184条第5項です。
このほか国税庁の手続案内では、次の場合にも届出の時期が定められています。
- 公益法人等および人格のない社団等が新たに収益事業を開始した場合……新たに収益事業を開始した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで
- 公共法人が収益事業を行う公益法人等に該当することとなった場合……該当することとなった日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで
- 公共法人または収益事業を行っていない公益法人等が普通法人または協同組合等に該当することとなった場合……該当することとなった日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで
- 設立後に新たに他の種類の事業を開始した場合、または事業の種類を変更した場合……その開始・変更した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで
見落とされやすいのは最後の項目です。設立時に届出を済ませていても、その後に業種の異なる事業を始めたり事業の種類を変えたりしたときは、あらためて届出の期限が来ます。
なお国税庁のタックスアンサー「No.5100 新設法人の届出書類」では、棚卸資産の評価方法の届出書は「必要に応じて提出する書類」に分類されています。法人設立届出書のように必ず出さなければならない書類ではありません。ただし前述のとおり、出さなければ最終仕入原価法になります。会社設立の段階で在庫を抱える事業を始めるなら、設立第1期の申告までに評価方法を決めておくのが順序としては自然です。
選定は「事業の種類ごと」かつ「資産の区分ごと」に行う
評価方法は会社全体で1つ選べばよい、というものではありません。事業の種類ごとに、かつ前述の資産の区分ごとに選定しなければならないとされています(法人税法施行令第29条第1項)。
さらに、法人税基本通達5-2-12では、事業所別に、あるいは資産の区分をその種類の異なるごとその他合理的な区分ごとに細分して、それぞれ異なる評価方法を選定することもできるとされています。複数の事業を営んでいる会社や、事業所ごとに在庫の性質が違う会社では、実態に合わせて分けて選ぶことができるということです。
一度決めた方法を変えるには承認が必要(目安は3年)
選定した評価方法を変更しようとするときは、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければなりません(法人税法施行令第30条第1項)。届出ではなく承認申請である点、そして期限が厳しい点が要注意です。
申請書の提出期限は、新たな評価方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までです(同条第2項)。決算を締めてから「今期はこの方法にしよう」と決めることはできません。前期のうちに手を打っておく必要があります。
また、税務署長は、現によっている評価方法を採用してから相当期間を経過していないとき、または変更後の方法では所得金額の計算が適正に行われ難いと認めるときは、申請を却下することができます(同条第3項)。この「相当期間」について、法人税基本通達5-2-13は、現によっている評価方法を採用してから3年を経過していないときは、合併や分割に伴うものである等の特別な理由があるときを除き、相当期間を経過していないときに該当するとしています。さらに同通達の注記では、3年を経過した後の申請であっても、変更することについて合理的な理由がないと認められるときは承認しないことができるとされています。つまり「毎期都合のいい方法に変える」ことは想定されていません。
一方で、申請が放置されたままにならない仕組みもあります。申請書を提出した場合において、採用しようとする事業年度終了の日(その事業年度について中間申告書を提出すべき法人は、その事業年度開始の日以後6月を経過した日の前日)までに承認または却下の処分がなかったときは、その日において承認があったものとみなされます(法人税法施行令第30条第5項)。
個人事業主の場合
個人で事業を営んでいる場合も考え方は同じですが、期限と選べる範囲が違います。
届出の期限は、新たに事業所得を生ずべき事業を開始した日、または他の種類の事業を開始・事業の種類を変更した日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までです(所得税法施行令第100条第2項)。国税庁の手続案内「A1-17 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続」も同じ内容で、提出期限が土日祝日等に当たる場合はその翌日が期限になるとしています。
選べる範囲については、その年分の所得税について青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けていない場合は、原価法(6つ)のみとされています(所得税法施行令第99条第1項)。低価法は青色申告の承認を受けている場合の選択肢です。
変更するときの申請期限は、新たな評価方法を採用しようとする年の3月15日までです(所得税法施行令第101条第2項)。その年の12月31日までに承認または却下の処分がなかったときは、同日に承認があったものとみなされます(同条第5項)。そして届出をしなかった場合は、法人と同じく最終仕入原価法による原価法になります(所得税法施行令第102条第1項)。
まとめ
- 選べる評価方法は原価法6つと低価法6つ。それ以外の方法は事前の承認が必要です。
- 届出をしなかった場合は、最終仕入原価法による原価法で評価することとされています(法人税法施行令第31条第1項)。
- 法人の届出期限は、設立第1期の確定申告書の提出期限まで。事業の種類を変えたときにも期限が来ます。
- 変更は届出ではなく承認申請で、期限は変更したい事業年度開始の日の前日まで。採用から3年が「相当期間」の目安とされています。
在庫を抱える事業では、評価方法の選び方が毎期の利益の見え方を左右します。自社が今どの方法で評価しているのか、届出書を提出していたかどうかが分からない場合は、決算前の早い段階で確認しておくことをおすすめします。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、2026年7月時点の税制・法令に基づいて作成しています。税制は改正される場合があり、また個別の取り扱いは状況により異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
この記事は 税理士 奥山博史(東京税理士会 豊島支部・登録番号 第66047号) が監修しています。


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