工事損失引当金とは?計上する条件と仕訳、税務では損金にならない理由|完成工事補償引当金との違いも税理士が解説

税理士 奥山博史

この記事は 税理士 奥山博史(東京税理士会 豊島支部・税理士登録番号 第66047号)が監修しています。
奥山税務会計事務所(東京都豊島区南池袋/池袋駅徒歩8分)

受注した工事が赤字になりそうだと分かったとき、その損失は「工事が終わってから」ではなく「赤字が見込まれた期」に計上する、というのが会計のルールです。このときに使う科目が工事損失引当金です。

ただし、会計で費用にした繰入額は、法人税の計算ではそのまま損金にはなりません。決算書と申告書で扱いが分かれる科目なので、建設業の経理では混乱しやすいところです。

この記事では、工事損失引当金を計上する条件・計算のしかた・仕訳・決算書での表示、名前の似ている完成工事補償引当金との違い、そして税務上の扱いを、会計基準と条文にもとづいて整理します。工事の収益をいつ計上するかという前提は、工事進行基準は廃止された?収益認識基準への移行で変わる会計処理で解説しています。

1. 工事損失引当金とは:赤字が見込まれる工事の損失を、見込んだ期に計上する引当金

工事損失引当金は、工事原価の総額が請負金額(工事収益総額)を上回る見込みになった工事について、その損失をあらかじめ計上しておくための負債の科目です。

建設業法にもとづく財務諸表の勘定科目を定めた国の告示では、工事損失引当金は次のように説明されています。

工事原価総額等が工事収益総額を上回る場合の超過額から、他の科目に計上された損益の額を控除した額に対する引当金

出典:昭和57年建設省告示第1660号(勘定科目の分類)。建設業情報管理センター掲載版

たとえば請負金額1億円の工事で、完成までの原価が1億2,000万円かかる見込みになったとします。この工事は、最後まで施工すると2,000万円の赤字です。引当金を計上しないと、この赤字は工事の進み具合や完成の時期に合わせて後の期に少しずつ、あるいは完成した期にまとめて表れます。工事損失引当金は、この赤字を「分かった期」の決算に反映させるための科目です。

2. 計上する条件:「超える可能性が高い」かつ「金額を合理的に見積れる」

会計上の根拠は、企業会計基準委員会の「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)の第90項です。会計基準の本体(企業会計基準第29号)ではなく、適用指針のほうに定めがあります。

工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(以下「工事損失」という。)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上する。

出典:企業会計基準適用指針第30号 第90項

整理すると、計上の条件は次の2つです。

条件 中身
① 超過する可能性が高い 工事原価総額等(販売直接経費の見積額を含む)が、工事収益総額を上回る可能性が高いこと
② 合理的に見積れる 上回る金額(工事損失)を、合理的に見積ることができること

「可能性が高い」について、適用指針は確率などの数字の基準を示していません。実行予算と実際に発生した原価の差、これから発生する原価の見通し、発注者と追加代金について合意できているかどうかといった事実から判断することになります。

なお、収益認識に関する会計基準では、契約の初めから終わりまでの期間がごく短い工事について、完成時に一括して収益を計上する扱いが認められています(適用指針第95項)。この扱いは収益を計上する時期についての定めであり、第90項の工事損失引当金とは別の定めです。

3. 計算のしかた:見込まれる損失から、すでに計上した損益を引く

計上する金額は、工事全体で見込まれる損失そのものではありません。すでに決算に反映された分を差し引いた「残り」です。

計算項目 計算式
工事損失(見込額) 工事原価総額等 − 工事収益総額
工事損失引当金 工事損失 − その工事ですでに計上した損益の額

3.1 数値例(工事の進み具合に応じて収益を計上している場合)

請負金額1億円、工期3期の工事で、2期目に資材価格が上がり赤字の見込みに変わった例です。進み具合(進捗度)は、発生した原価の割合で測るものとします。数字は説明のための仮のものです。

項目 1期目 2期目 3期目 合計
見積工事原価総額 9,000万円 1億500万円 1億500万円 −
当期に発生した原価 2,700万円 3,600万円 4,200万円 1億500万円
進捗度(累計) 30% 60% 100% −
当期の工事収益 3,000万円 3,000万円 4,000万円 1億円
当期の工事損益 +300万円 △600万円 △200万円 △500万円
引当金の繰入(△)・取崩し 0 △200万円 +200万円 0
各期の損益への影響 +300万円 △800万円 0 △500万円
  • 1期目:原価総額9,000万円で、赤字の見込みはありません。進捗度は2,700万円÷9,000万円=30%、収益3,000万円、利益300万円です。
  • 2期目:原価総額の見積りが1億500万円に増え、工事全体で500万円の赤字見込みになりました。進捗度は6,300万円÷1億500万円=60%、累計の収益は6,000万円なので、当期の収益は3,000万円、当期の損益は△600万円です。ここまでに計上した損益の累計は300万円−600万円=△300万円。工事損失500万円のうち300万円はすでに反映されているので、残りの200万円を工事損失引当金に計上します。
  • 3期目:見積りどおりに完成すると当期の損益は△200万円ですが、前期に計上した引当金200万円を取り崩すため、当期の損益への影響は0になります。

3期を合計した損益は△500万円で、工事全体の赤字と一致します。赤字が分かった2期目に、工事全体の赤字500万円と、1期目に計上していた利益300万円の戻しが、まとめて反映される形です。

3.2 完成時に一括して収益を計上している工事の場合

完成・引渡しの時に収益を計上している工事では、完成まで損益が何も計上されていません。そのため「すでに計上した損益」は0で、見込まれる損失の全額が引当金の額になります。請負金額5,000万円・見積原価5,600万円の工事なら、600万円です。

4. 仕訳と決算書での表示

4.1 仕訳の例

上の3.1の例の仕訳です。科目名は一例で、会社によって異なります。

場面 借方 貸方
2期目の期末(計上) 工事損失引当金繰入額 200万円 工事損失引当金 200万円
3期目(完成・取崩し) 工事損失引当金 200万円 工事損失引当金戻入額 200万円

工事原価総額や請負金額の見積りが変わったときは、期末に必要な引当金の額を計算し直し、前期末の残高との差額を繰り入れる(または取り崩す)ことになります。

4.2 貸借対照表・損益計算書での表示

表示については、適用指針第106項に定めがあります。

項目 表示
工事損失引当金 貸借対照表の流動負債に、内容を示す科目で表示する
繰入額 損益計算書の売上原価として表示する(建設業では完成工事原価)
同じ工事に棚卸資産がある場合 同一の工事契約の棚卸資産(未成工事支出金など)と工事損失引当金がともに計上されるときは、貸借対照表上、相殺して表示することができる

また、適用指針第106-9項は、当期の工事損失引当金繰入額と、同一の工事契約の棚卸資産と引当金がともに計上される場合の金額(相殺せず両建てにしたときは、その旨と棚卸資産のうち引当金に対応する額。相殺したときは、その旨と相殺表示した棚卸資産の額)を注記することを定めています。

未成工事支出金そのものの意味と振替の流れは、未成工事支出金とは?仕掛品との違い・完成工事原価への振替で解説しています。

4.3 建設業法の財務諸表での扱い

建設業の許可を受けた会社が提出する財務諸表でも、工事損失引当金は流動負債の「引当金」の一つとして、国の告示(勘定科目の分類)に挙げられています。告示では「修繕引当金、完成工事補償引当金、工事損失引当金等の引当金(その設定目的を示す名称を付した科目をもって記載すること。)」とされています。完成工事原価の内訳の書き方は、完成工事原価報告書の書き方をご覧ください。

5. 完成工事補償引当金との違い:「これからの赤字」と「引き渡した後の補償」

名前が似ている科目に、完成工事補償引当金があります。同じ告示での説明を並べると、備える対象が違うことが分かります。

比較項目 工事損失引当金 完成工事補償引当金
告示での説明 工事原価総額等が工事収益総額を上回る場合の超過額から、他の科目に計上された損益の額を控除した額に対する引当金 引渡しを完了した工事に係る契約不適合を理由とした履行の追完の請求、損害賠償の請求、代金の減額の請求又は契約の解除に対する引当金
何に備えるか 施工中(未完成)の工事で見込まれる赤字 引き渡した後の工事について、契約不適合を理由に受ける請求
対象になる工事 まだ完成していない工事 引渡しを完了した工事

工事損失引当金は「これから完成させる工事の赤字」、完成工事補償引当金は「すでに引き渡した工事の、後からの手直しなどへの備え」です。

6. 税務では損金にならない:申告で加算する

ここが、決算と申告で扱いが分かれるところです。

6.1 損金になる費用は「期末までに債務が確定したもの」

法人税法は、その事業年度の損金になる販売費・一般管理費その他の費用から、「償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないもの」を除いています(法人税法第22条第3項第2号)。

債務が確定しているかどうかは、国税庁の通達で、次の3つのすべてに当てはまるものとされています(法人税基本通達2-2-12)。

通達の3つの要件 工事損失引当金に当てはめると
(1) 期末までに、その費用に係る債務が成立していること これから発生する原価の見積りであり、期末の時点で相手に支払う義務は成立していない
(2) 期末までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること 赤字のもとになる資材の仕入や外注の作業は、翌期以降に行われる
(3) 期末までに、その金額を合理的に算定できること 会計上は合理的に見積るが、(1)(2)を満たしていない

工事損失引当金の繰入額は、将来の見込みを費用にしたものです。そのため、繰り入れた期の法人税の計算では損金にならず、申告書の上で所得に加算することになります。その後、実際に原価が発生して引当金を取り崩した期に、加算していた分を減算します。会計と税務で、費用になる時期がずれるということです。

6.2 法人税法に定めのある引当金は限られている

法人税法が繰入額の損金算入を認めている引当金に、貸倒引当金があります(法人税法第52条)。ただし、対象は資本金1億円以下の普通法人(一定の法人を除く)や銀行・保険会社など、同条に掲げられた法人です。詳しくは貸倒引当金とは?損金にできる法人の条件・繰入限度額の計算で解説しています。工事損失引当金には、このような定めはありません。

6.3 工事進行基準が強制される工事でも同じ

着手から引渡しの期日までが1年以上で、請負の対価が10億円以上であるなどの要件を満たす「長期大規模工事」は、法人税でも工事進行基準で収益と費用を計上します(法人税法第63条第1項、同法施行令第129条)。これは、工事の進み具合に応じて各期の収益と費用を計算する方法です。将来の見込みの損失を引当金として先に損金にする定めではありません。

項目 会計(決算書) 法人税(申告書)
赤字が見込まれた期 工事損失引当金を計上し、繰入額を売上原価に含める 繰入額は損金にならない(申告で加算)
原価が実際に発生した期 引当金を取り崩す 実際の原価が損金になる(加算していた分を減算)
根拠 適用指針第30号 第90項・第106項 法人税法第22条第3項第2号、法人税基本通達2-2-12

加算・減算を申告書のどの欄にどう書くかは、会社の経理処理(洗替えか差額補充か、棚卸資産と相殺表示しているか)によって変わります。実際の申告にあたっては、税理士にご確認ください。

7. よくある質問

7.1 中小の建設会社も計上しなければなりませんか?

どの会計のルールにもとづいて決算書を作っているかによります。この記事で根拠にした適用指針は「収益認識に関する会計基準」(2021年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用)とセットのものです。自社の決算書がどのルールによっているか、金融機関や発注者からどのような決算書を求められているかによって扱いが変わるため、顧問の税理士にご相談ください。

7.2 計上していなくても、赤字工事は把握しておくべきですか?

引当金を計上するかどうかとは別に、期末の時点で施工中の工事ごとに「請負金額」と「完成までの原価の見込み」を並べておくと、どの工事で赤字が見込まれるかが分かります。決算の説明や資金繰りの見通しを立てるときの材料になります。

7.3 工事損失引当金を計上すると、税金は減りますか?

繰入額は繰り入れた期の損金にならないため、計上した期の法人税の所得は、その分は減りません。実際に原価が発生した期に損金になります。

7.4 受注制作のソフトウェアにも関係がありますか?

適用指針第91項は、受注制作のソフトウェアについても工事契約に準じて第90項を適用すると定めています。

8. まとめ

  • 工事損失引当金は、工事原価総額等が工事収益総額を超える可能性が高く、その金額を合理的に見積れるときに、損失が見込まれた期に計上する引当金です(適用指針第30号 第90項)。
  • 金額は、見込まれる工事損失から、その工事ですでに計上した損益を差し引いた残りです。
  • 貸借対照表では流動負債、繰入額は売上原価に表示します。同じ工事の棚卸資産と相殺して表示することもできます(同 第106項)。
  • 完成工事補償引当金は、引渡しを完了した工事の契約不適合に備える引当金で、備える対象が違います。
  • 法人税では、繰入額は期末までに債務が確定した費用に当たらないため、繰り入れた期の損金にならず、申告で加算します(法人税法第22条第3項第2号、法人税基本通達2-2-12)。

赤字が見込まれる工事があるときは、決算書にどう表すかと、申告でどう調整するかの両方を確認する必要があります。決算の前に、工事ごとの採算の見込みを整理しておくと判断がしやすくなります。

この記事の根拠(一次資料)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、2026年10月時点の税制・法令・会計基準に基づいて作成しています。税制は改正される場合があり、また個別の取り扱いは状況により異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
税理士 奥山博史

奥山 博史(おくやま ひろし)/税理士
東京税理士会 豊島支部・税理士登録番号 第66047号
昭和32年生まれ。東洋大学経済学部卒業。平成元年に奥山税務会計事務所(東京都豊島区南池袋)を開業。会社設立・法人/個人の税務顧問・相続まで、池袋を拠点に幅広く手がける。

この記事は 税理士 奥山博史(東京税理士会 豊島支部・登録番号 第66047号) が監修しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました